現在に遺る日本の伝統建築物で、庶民の人々が暮らしていたような建物は、ほとんどが江戸時代以降のものだそう。「古民家」という単語を最近よく聞きますが、江戸時代の建物だとしても150年以上は経っていますから、当時の技術が昨今の建築業界で見直されてきているのもうなずけます。特徴的だとして文化財に指定されている建物は、庶民の民家、というよりは江戸時代羽振りの良かった庄屋の豪邸や、豪農のお蔵といったものが多いようですが。
さて、武士の住宅、というとお城やお屋敷のような豪奢な建物群を想像されるかもしれませんが、このページではそういった特権階級ではない武士たちの住まいに焦点を当てようと思います。
基本的な様式は書院造で、住まいのレイアウトとしては、主人の居間でありお客様を迎えるための座敷と、家族の生活の場である奥の部屋や玄関・台所があります。想像してみてください。座敷には床の間があり、大体8畳くらいの広さがあって、奥には次の間が続き、縁側があって…。一昔前の大正・昭和の民家の造りに似ていると思いませんか?
現在の住宅にも、大抵は玄関を入るとリビングダイニングがあり、2階に家族の寝室があります。リビングに付属の和室がある住宅も珍しくないのは、客間としての和室、という文化が根付いているからでしょう。明治期以降、住宅需要の多くを占めるサラリーマン家庭の住宅の元になったのは、こういった武士の住まいなのです。