時代考証とは

時代考証ってなんなの?という疑問のためにwikipediaを引用しておくと
-映画・テレビの時代劇や時代小説などで描かれる歴史的な過去の言葉遣い・名称や呼称・生活習慣・建築様式・美術様式・政治制度などが、史実として適正なものか否かについてを検証すること。-とあります。

美術品、服装に限って言えば、美術考証・衣装考証と言ったりもします。平成の大河ドラマで多く時代考証を務められた大石 学氏が立ち上げられた、時代考証学会なんてものもあるそうです。議題を散見すると、「歴史作品としての時代劇を制作するために必要な指導者の技術(例えば、浮世絵師の一生、というような話であれば指導者に浮世絵制作の経験が必要)などを鑑みたとき、制作における問題点について」など、実際の時代考証の際の実務に関することが多く、興味深いものでした。結構誰でも参加できるようなので、もし興味がある方は行ってみても面白いのではないでしょうか。私も行ってみたい…。時代考証学会 オフィシャルサイト

時代考証とは、歴史の授業で習うような参勤交代のしくみを事細かく調べる、というものではないようです。一口に士農工商と言うけれど、武士は武士でも将軍から外様藩の旗本まで身分だけとっても多様な背景があります。例えば、土佐藩のように少し特殊な身分制の藩では、武士と同じようにはあつかわれない郷士という身分がある。彼らがそこで実際にどんな生活をしていたのかを、細部に至って監修するのだそうです。何時に起きて、仕事に出る前に何をして、職場ではどんな道具を使い何が難しいのか、帰って一服する時はどんな娯楽があるのか。全部、知らないと描けないことばかりです。

そもそも、時代考証の担当者がカバーしないといけない範囲はどこまでなのでしょうか。史実として適正なものか否か、という曖昧な定義だけでは、如何様にも限定できませんね。だからこそ、「あんな解釈は間違っている」という歴史ファンからの抗議が、毎度必ず一定数は出てくるのです。まあ、「解釈」とはそもそも史実から特定できない部分をどう表現するか、というモノなので、間違いも何もないと思いますが。だから一定のラインで「史実ではありえない」なんてことにならないように専門家がいる、と言ってしまうと簡単に線引きできるのでしょうが、細かいところでどこまで実現するか、というところが課題に違いありません。よく言われるのは言葉尻や言葉遣いの話で、例えば、「上役のお眼鏡にかなう」という言い回しについて。眼鏡が日本に伝わったのは少なくとも宣教師が来てからですし、少数なりと一般に流布したのは江戸時代以降のことだから、こんな言葉遣いはあり得ない、というわけです。「いかに今の世代にわかりやすく伝えるか」、とは確実に相反する部分もあります。演出とのすり合わせは大変でしょうが、時代背景は背景としてうまく取り入れて、状況の厚みを生み出し、話の内容が心に訴える「舞台」をつくりだすことに、時代考証家の仕事人としての「粋」を感じます。